三谷幸喜脚本『オリエント急行殺人事件』

2夜もあるからどういうふうにドラマ化するのかと思っていたら、第1夜で原作に沿った通りのストーリーをやり、第2夜でオリジナル脚本を犯人側の視点から描くという構成で、それを知ってなるほど、と思った。

 

オリエント急行殺人事件』はそのトリックがすさまじくて有名だけど、原作やドラマ・映画では、海外のものによくあることだが、犯人側のことはあまり深く描かれない。あれだけのトリックを施すに至るまでの犯人側の人間ドラマを描きたくなるのは、確かに納得できる。
とくに、日本のドラマや映画は犯人の動機やそこに至る心情にかなりこだわっているし。犯人が追いつめられるとだいたい、自分語りをする。海外のはあまりなくて、刑事コロンボなんかも、犯人が分かるとそこで終わったりする。

それに、けっこう手間のかかるこのトリック、不測の事態で乗り込んできた名探偵勝呂など、バタバタしてるところはシチュエーションコメディとしてはもってこいの場所なのかもしれない。言われてみれば、『オリエント急行』って三谷幸喜ぽいかも…と思わせる選択だったからすごい。

それに、2夜に分けることで、フーダニット(犯人当て)と倒叙もの(犯人が先に分かっている古畑任三郎みたいなやつ)を一つの話で両立させていて、贅沢だなあ、と思った。

内容は、第1夜はほぼ映画版と同じところがあったりして、といってもあんまり覚えてないので、映画知ってる人はもっと面白いんだろうなあ、と感じた。ポアロにあたる勝呂尊を演じる野村萬斎も、しゃべり方が映画の吹き替えにそっくりだったし、変人の名探偵で好きだった。

話も、尋問が中心になってしまうので退屈しそうなところを会話の面白さで全然飽きずにみられた。3時間もあったけどそう感じさせなかった。
もっと第2夜の列車内の場面みたかったかな。もっと三谷幸喜っぽい面白い場面たくさんできそうだし。

ラストの勝呂の選択は色々と言われてるけど、これが『オリエント急行殺人事件』の最大の特徴なのだから、賛否両論なのは当然で、これだけたくさんの人が考えることに意味があると思う。
ミステリは好きなので、ミステリの結末をこんなにたくさんの人が考えているなんて、と少し嬉しくなってしまった。
ただ、三谷幸喜という名前が大きすぎるせいか、「なぜ脚本家はこの結末にしたのか」という意見に終始してるのが残念。むしろ、「自分ならどうするか」とかの色々な意見をみてみたかったんだけど。

 

 

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『ベイマックス』

テンポがよくてあっという間にみ終わってしまった。

それでいて、悲しいシーン、ほっこりするシーン、笑えるシーン、爽快なアクションシーンなどの要素がしっかり入っているのですごく満足できる映画だった。

 

ヒロが最初に挑戦する『リアル・スティール』みたいなロボットバトルやナノボットの動き、科学の力で戦う仲間たちのアクションはやっぱりCGアニメーションがぴったりでみていて気持ちがいい。ベイマックスの空を飛ぶシーンも。

 

序盤に思ったことは、『カールじいさんの空飛ぶ家』と同じで、悲劇があるというストーリーをしっていると、初めにある幸せなパートが、幸せであればあるほど辛くなってきてしまう。それは仕方のないことだけど。

 

そこが強く印象に残っているのも、兄弟のつながり、仲間のつながり、父娘のつながりなど、関係性が大きな要素だから、予告編があまりアクションシーンがなくて、ハートウォーミングなものにしすぎ、という意見もあったけど、まあいいんじゃないかな、と思う。ヒロの成長の話だし。

もちろん、仲間がそれぞれの能力を生かした戦いをするところはすごく格好いいのでみせないのはもったいないかもとは思うけど。原題は『BIG HERO 6』というらしい。

その特殊能力も、みていて楽しいだけでなくて、ベイマックスのロケットパンチを最後に生かすための伏線とそのカモフラージュになっているところがうまいなあ、と思った。

 

やっぱり少年とロボットの交流だと『ドラえもん』を思い出す。あと『ターミネーター2』も思い出した。チップだし。

 

 

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『ベイマックス』エピソード0

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『太陽の罠』最終話 感想

いろいろ収束したんだけど、要素が多くてなんだかぼんやりしていた印象。

長谷川(西島隆弘)が豹変して復讐のために葵(伊藤歩)と澤田(塚本高史)を訴えようとするところは迫力があった。そしてそのあとに長谷川と葵が若いする場面も伊藤歩がよくて胸に迫るものがあった。

最後の見せ場は、敵対する外国企業との交渉の場面で、長谷川が澤田の心に訴えて、不正を認めさせようとするところだと思う。実は、葵が亡くなっていたり、生前に告発文をメールでのこしていたり、また、澤田との思い出の品がキーとして使われたり、とサプライズや伏線回収があるんだけど、多すぎてそれぞれが薄くなってしまった印象。全四回でするには少しややこしすぎたのだろうか。
最後に刑事の吉田栄作出てきたり、元開発部長の伊武雅刀が結局いいとことったり、とか、詰め込んだ感がある。

尾美としのりが妻に「幸せにしてやれなくてごめん」って謝っててかなり『あまちゃん』だった。

『リーガルハイ』シーズン2 最終話 感想

面白かったな…

毎回だけど、二転三転するストーリーに、古美門(堺雅人)と羽生(岡田将生)と黛(新垣結衣)の三者三様の信念や意志がうまくからんでて感心してしまう。

前回の話で斉藤貴和(小雪)の死刑判決は一審差し戻しになったが、それも羽生の計画通りだった。死刑廃止論者の羽生はわざと差し戻させ、無期懲役に持ち込むつもりだったのだ。それも、羽生の理想とする「みんなが幸せになる」結末にするためだ。そのため、最高裁では古美門に死刑を否定させ、差し戻した一審では古美門は外され、三木(生瀬勝久)が貴和の担当弁護士になった。
やっぱり三木先生出てくると違うなあ。羽生に取り込まれてフットサルのシューズを大事そうに持っているシーンなんてすごく面白かったもんな。出てた時間は短かったけど存在感大きかった。

貴和が誰かをかばっているのではないか、ということから、ある可能性が浮かび上がる。しかし、その事実を公表すれば、その犯人はもちろん、自分の身を犠牲にしてまでかばおうとした貴和も不幸になる。
その「真実」が明らかになることを避けるため、羽生は上記のような方法をとったのだった。「真実」は明らかにしたくない、しかし、「悪女」である貴和は罰をうけるべきだ。その結果として導き出したのが、最高裁も認めた上での、無期懲役だった。
羽生は古美門に言う。古美門が、勝つためなら、真実なんてどうでもいい、と言うなら、自分はみんなが幸せになるなら、真実なんてどうでもいい、と。
それに対し、黛は、「真実」こそが重要なのだと言う。「真実」ならば、不幸になっても仕方がないのだ、と。

古美門事務所は強行手段にでる。事務所の蘭丸(田口淳之介)に服部さん(里見浩太朗)を訴えさせ、参考人として貴和を出廷させるという荒技だ。
ここはよかったなあ。そんな手で来るのか、という驚きと、全然傍聴人いないところで茶番をやってるところが面白かった。裁判官も。

貴和を引っ張り出した古美門は、大勢の傍聴人の前で、貴和が誰かをかばっている可能性を示唆する。その誰かとは、彼女の娘ではないのか、とDNA鑑定書をちらつかせる。隠し続けて来たことを明らかにされ、貴和は取り乱す。死刑になる覚悟までして隠した秘密が明かされるのだから当然だ。傍聴席の羽生も声を荒げる。
事実が証明されたかどうかはともかく、結果としてその可能性はおおやけになってしまった。そんな貴和に対し、古美門は詰め寄る。守るものがなくなったんだから、自分の利益を考え、無罪放免されてしまえ、自分だけのことしか考えてこなかった「悪女」に戻ってしまえ、と。
強く追求する古美門に対し、黛は貴和を擁護する。ならばどうするのか、とさらに問い詰められた黛は、自分の信念に反し、「真実」を新しく作ることを決意する。このあとに涙でびしょびしょになった小雪が映るのがいい。目の前の人を救いたい黛の決意にも納得できる。

そして最後の法廷。
黛の被告人質問に、貴和は犯行を認め始める。羽生は怪訝そうな顔をするが、途中から回答の様子が変わり始める。貴和は、毒物を現場に持ち込んだが、料理に混入はしていない、おそらく被害者家族が誤って入れてしまったのだろう、と事故であることを主張し始めたのだ。黛が作り出した新しい「真実」とは、誰かを犯人にすることではなく、事件そのものをなくし、事故にしてしまうことだった。それが、貴和が自分の子供だと思っている被害者の娘を犯人にすることはもちろん、父を犯人にして娘を悲しませることもせず、さらに貴和の罪をなくすため、黛が選んだ結論だった。
羽生は激昂する。
貴和を放免することは、不幸な人を生み出す、自分の目論みをすべて台無しにすることだからだ。黛の方法は、そんな愚かな考えだと。

ここからは、古美門と羽生のぶつかりあいになる。これは、前回の「民意」論争の延長でもあるかもしれない。
羽生は、人間は愚かだから誰かが導かなければならない、と言う。たしかに、羽生はこの事件を通して人気者になり、「愚かな」人間たちを導くことに成功していた。さわやかな羽生の影響で、世間の論調も、死刑から無期懲役に変わり始めていた。
人間の愚かさを古美門は否定しない。たしかに、古美門はよく知っているはずだ。このシーズンを通して、愚かさな人間の依頼を受け、愚かさを利用して、多くの裁判に勝ってきたのだから。
僕のどこが間違っているんですか、と尋ねる羽生に対し、古美門は、間違っていないと思っているところだよ、と答える。
われわれ人間はみな醜く、愚かである。そのなかで自分だけがそうではなく、人間たちを「正しい」方向へ導くことができると主張する羽生を古美門はこてんぱんに否定する。思いつく限りじゃないかというくらいの罵倒をする。そして打ちのめされる羽生に対し、言う。
みなが幸せな世界をつくりたいのなら、醜さを愛せ、と。
古美門は裁判においていつも人間の愚かさを前提にしている。裏取引もするし、買収だってする。それは、なんとか「正しい」方向へ導こうとする羽生とは正反対だ。古美門はそんな愚かな人間を馬鹿にしているように見える。しかし、愚かさを諦め、認めているということは、ある意味で、許し、愛しているのだと言えるかもしれない。
羽生の敗因は、自分も含めた人間の愚かさ、醜さを認められなかったことなのだろう。
結果、貴和は殺人・殺人未遂に関しては無罪となる。

だが、もちろん簡単には終らない。
これはいつものパターンではあるが、古美門のDNA鑑定書は捏造で、「真実」はどうだったのか、犯人も親子関係も結局わからずじまいだ。まさに、古美門の信念、「勝てば真実なんてどうでもいい」が実現されたのだった。シーズン1のあとのスペシャルドラマとか、何回かこういう結末あるけど、この古美門の信念を表してて、このドラマに合ってる終わりかただ。
でも、今回のは、古美門の優しさ、ととることも出来る。「真実」が何かわからない状態ならば、法廷での黛の「作った真実」も、「真実」である可能性が残る。完全な虚偽にはならない。黛の信念を曲げたことにならないのだ。でもそこまで古美門が気を使っていた、というのはうがちすぎなんだろうな。


では、何が真実だったのか。
黛は羽生との別れ際、羽生の気持ちには答えられない、と告げる。羽生は戸惑いつつも、受け入れる。
一人になったバスの中で羽生は黛が写った古美門事務所の写真を眺めている。そして、写真の中の髪をなでる。黛のうしろに写っている古美門の、きれいに横分けにされた髪を。。
やはり真実はいつも喜劇なのだった。最高ですね。

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『太陽の罠』第3話 感想

特許侵害で和解金を請求されるメイオウ電機は今度は敵対的買収までしかけられてきて、いよいよ『ハゲタカ』みたいになってきた。

しかし、今回のいちばん大きな話の動きはパテントトロールの澤田謙(塚本高史)の素姓がわかり、長谷川(西島隆弘)の妻・葵(伊藤歩)の正体も判明したことだ。
まあその明かし方も、すごく芝居がかっていて不自然だったんだけど。よく敵が冥土の土産にきかせてやろう、っていう感じで、長谷川にとうとうと自分語りをする。いくらメイオウ電機に恨みがあるとはいえ、澤田が長谷川を絶望させる必要性はないと思うんだけどなあ。むしろ昔の自分と同じ立場なわけだし。単に性格悪い奴になったってことなのか。イヤな奴すぎて、絶対葵は裏切るだろ、って思ってしまうけどなあ。
騙されていたことを知り、長谷川が感情を爆発させるところは、それまで感情表現を抑えられていただけに、ギャップがあり印象的だったけど、帰ってくるなりそとの雷がなるとか、やっぱり全体的に芝居がかってるんだよな。

アメリカでの企業間交渉の場面はいろいろテクニックが紹介されたりして面白かったけど、最後に濱(尾美としのり)がキレて「全面戦争だ!」と啖呵をきる場面は、どうみても『半沢直樹』のそれだった。工場がつぶされたところとかもかぶってるけど、それは他でもよくある。

刑事から濱に電話かかってきてやっと、前の開発部長(伊武雅刀)が殴られて意識不明だったこと思いだした。長谷川の疑いもすぐ晴れたし、この傷害事件、必要だったのかなあ。目を覚まして、なにかひと波乱あるのかもしれないが。この件に加えて、娘が澤田といる写真を送られたりとか、濱は大変な目に合いすぎ。

澤田謙てきくたびに沢田研二思い浮かべてしまったんだけど、そういうこと考慮されないのかなあ。字面だと違うからかな。

次回最終回で、葵はついに裏切るようだが、どんな手を使って澤田に一矢報いるのか、が注目される。 

『都市伝説の女』Part2 最終話まで 感想

完全に好きなドラマ。これは好みの話で、客観性は一切ないけど。

都市伝説プラス殺人事件、っていうだけでも、かなり贅沢なんだけど、そのうえ、主人公が都市伝説好きのかわいい女の子なんて、完璧すぎる。もうある意味、テレビドラマはこうあるべき、っていうドラマ。しかも、金曜の深夜帯でテレビ朝日。分かってる、って感じがする。いやそんな偉そうなことを言うわけじゃないんだけど、きっとこういうのを待ってた、ドンピシャっていう人はたくさんいるはず。いると思う。この時間帯は『TRICK』の頃から喜劇調ミステリのいいものをたくさんやってくれていている。よく考えたら『TRICK』なんて十五年くらい昔なわけで(そんな前か…)、それだけ枠の性質を残してくれているのはありがたいことだ。きっとファンも一定数いるんじゃないかな。一話完結で、いつからみてもすぐに話が分かる。『TRICK』もだけど、軽い気持ちでみれるし、こういうところが金曜の夜にちょうどいいんだろう。

やはり音無月子(長澤まさみ)のキャラがいい。都市伝説の証明に没頭して、事件をめちゃくちゃに捜査するから、下手をすればウザいキャラになってしまうと思うんだけど、そうならない。天真爛漫なふうに演じている長澤まさみがうまい(かわいい)っていうのもあるんだろうけど、周りの刑事たち(竹中直人平山浩行)が怒ってそれを受けとめてくれるので、鑑識の勝浦くん(溝端淳平)のようにわれわれ視聴者も、月子を許してしまう。自分が男性だからかな。
でも、月子はけっこう自分の美貌を武器に捜査をするんだけど、それも堂々としていて、いやらしさがあんまり感じられない。ドラマのなかでも、鑑識の高田(大久保佳代子)に、せっかくなんだから使わないと損ですよ、とうまくいいくるめる場面もある。女性がみてもあまりいらっとしないで許してしまうと思うんだけど、どうだろう。そこはかなり気を使って、月子のさばさばした発言をさせることで絶妙なラインをキープしていたように思う。

そう、Part2から高田役の大久保さんが登場するようになったことも含めて、Part1よりもパワーアップしていたと感じた。特に、大久保さんも含めた、ギャグがより面白くなってた。月子と勝浦のかけあいもどんどんテンポや間がよくなっていて、特に最終話は会話がすごく面白かった。ギャグ用の映像とかけっこう多いな、と思ってたら脚本は福田雄一だった。
Part2では脚本にも新しい人が入っていて、長澤まさみの舞台『ライク・ドロシー』を作・演出した倉持裕も参加していた。
ほかに印象的だったのは第6回のアンドロイドの都市伝説を扱った回。最後のオチがけこう衝撃的で、異色だったんじゃないだろうか。ちょっと予想外すぎたし、最後のアンドロイドの動きとビジュアルが少しこわくて奇妙な終わりかただった。この回の脚本は渡辺雄介だった。

あと、エンディングテーマがPerfumeだったんだけど、それを途中からほぼ毎回月子が踊るのが、かわいかった。後ろで踊る丹内(竹中直人)がめちゃくちゃなのも面白かった。

また続編やって欲しいな。ずっとみてられるから、ずっと部屋に流してたい。

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ドラマ『クロコーチ』最終話まで 感想

先週最終回をむかえた『クロコーチ』はなかなか挑戦的なドラマだった。

週刊漫画ゴラクで連載中の、リチャード・ウー原作、コウノコウジ作画の同名コミックが原作なんだけど、マンガの魅力が消されずに、よく表されているように感じた。
とはいっても、原作マンガを読んでいないので、どれくらい反映されているのかは、正直なところ、判断ができない。ただ、『クロコーチ』のドラマからは、原作のような「青年マンガ」を読んだときと同じようなものを感じることができた。
たとえば、社会の暗部とか、過激な表現で深い人間ドラマを描写する、という点では、現在では、ドラマよりもマンガのほうが表現の幅が広くなっているように感じる。やはり不特定多数の人がみる可能性のあるテレビドラマでは、刺激の強すぎるものは敬遠されるだろうし、複雑なストーリーも視聴者が離れてしまう懸念がある。
一方マンガでは、特に青年誌では性的にも暴力的にも過激な描写が可能だし、読み返すことができるので、複雑なストーリーでも追っていくことができる。リアルな人間社会のなかの犯罪のような、人間の悪の部分をテーマにした作品でこそ、マンガならではの際限なく暗部をえぐる表現が可能になる。
そんな青年誌の雰囲気を、ドラマでは画面から感じることができた。

主人公の悪徳刑事・黒河内圭太を長瀬智也が、彼とペアを組むことになるエリート刑事・清家真代を剛力彩芽が演じる。
黒河内は登場からとにかく悪くて、いきなり県会議員(石丸謙二郎)の殺人の隠蔽に手を貸す。それも、よくある悪いふりをして実際はそんなことをしない、とかではなくて、本当に隠す。それだけでも、普通のドラマとはひと味違うな、と思った。
でも、一番はじめに「違うな」と感じたのは、被害者女性の遺体の描写のシーン。
情事のあとに殺されたと見られる遺体だったんだけど、搬送されるときに、裸体の上半身が映されていたのだ。普通のドラマだと、22時代とはいえ、よほど必要がなければ、映さずに済ますと思う。
この第1回で、このドラマは過激な表現を含みます、ということを明言していたのだと思うし、視聴者側もそのように覚悟して、みることになっただろう。この後にも、全身の毛を剃った殺し屋とか、幾か所も骨折させられた遺体とか、ビジュアル的にも刺激の強いものもあり、緊張感を与えていた。
あと、この県会議員もすぐに自殺してしまう。これも、ドラマでよくある偽装自殺ではない。テレビドラマでは、「なんだかんだいって、人を死に追い込んだりはしない」主人公が多いが、それもない。この議員に限らず、殺される人が多い。黒河内が秘密の核心に近づけば近づくほど、知っている人間が死んでいく。
このような点も、マンガ的であるように思う。
登場人物がすぐに死んでしまうことは、うえでテレビで難しいことのひとつに挙げた、複雑なストーリーということにも関わってくる。一人登場人物がいなくなれば、新しい手掛かりを探すために新しい人物がでてくることになるし、死んだキャラクターもあとから名前だけで話題にでてくる。それらを視聴者は憶えていなくてはいけない。
また、複雑さの点で特徴的だと思ったのは、説明が最小限に抑えられていた、ということ。いま述べた登場人物についてもそうだが、複雑なストーリーのわりに、説明が少ない。前回のあらすじのパートも短いし、会話でも過去の映像をフラッシュバックさせずに名前だけで他の登場人物を挙げることが多かった。
これは不親切ということもできるけど、それらを省くことで、多くの展開を一話に詰めることができるし、会話のときに表情を強調することができる。ある意味、視聴者を信頼してくれている、勇気あるやり方だと思う。
それに、黒河内の長瀬や、沢渡を演じる渡部篤郎の表情が多くを語ってとてもいいので、合った手法だったと思う。長瀬は本当にハマってて、マンガ的なキャラクターに現実感を持たせてた。『泣くな、はらちゃん』とか『うぬぼれ刑事』とか、全然違うけど、非現実なキャラができるのはすごい。
現在のストーリーだけでも複雑なのに、過去の三億円事件とのからみもあるからもっと複雑になる。毎回、事件当時のフラッシュバックが冒頭に流され、回を追うごとにだんだん明らかになる。初めはどうからんでくるのかも分からないのが、少しずつ現在とつながっていくのがうまい。
番組ラストには、通常「このドラマはフィクションです」とでるところだが、黒バックで「このドラマはひとつの仮説である」とでる。これはこのドラマをよく表していて、ある三億円事件における仮説をもとに、壮大なストーリーが展開されている。まだ原作は連載中だが、ドラマは全10回で納得いくひとつの終わり方をしていたと思う。
マンガ的なよさがあるのは深夜ドラマの特権だったが、その猥雑なよさに、プライムタイムのドラマのもつストーリー展開やキャストも合わさったドラマだったと感じた。 

クロコーチ(1) (ニチブンコミックス)

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