ドラマ『クロコーチ』最終話まで 感想

先週最終回をむかえた『クロコーチ』はなかなか挑戦的なドラマだった。

週刊漫画ゴラクで連載中の、リチャード・ウー原作、コウノコウジ作画の同名コミックが原作なんだけど、マンガの魅力が消されずに、よく表されているように感じた。
とはいっても、原作マンガを読んでいないので、どれくらい反映されているのかは、正直なところ、判断ができない。ただ、『クロコーチ』のドラマからは、原作のような「青年マンガ」を読んだときと同じようなものを感じることができた。
たとえば、社会の暗部とか、過激な表現で深い人間ドラマを描写する、という点では、現在では、ドラマよりもマンガのほうが表現の幅が広くなっているように感じる。やはり不特定多数の人がみる可能性のあるテレビドラマでは、刺激の強すぎるものは敬遠されるだろうし、複雑なストーリーも視聴者が離れてしまう懸念がある。
一方マンガでは、特に青年誌では性的にも暴力的にも過激な描写が可能だし、読み返すことができるので、複雑なストーリーでも追っていくことができる。リアルな人間社会のなかの犯罪のような、人間の悪の部分をテーマにした作品でこそ、マンガならではの際限なく暗部をえぐる表現が可能になる。
そんな青年誌の雰囲気を、ドラマでは画面から感じることができた。

主人公の悪徳刑事・黒河内圭太を長瀬智也が、彼とペアを組むことになるエリート刑事・清家真代を剛力彩芽が演じる。
黒河内は登場からとにかく悪くて、いきなり県会議員(石丸謙二郎)の殺人の隠蔽に手を貸す。それも、よくある悪いふりをして実際はそんなことをしない、とかではなくて、本当に隠す。それだけでも、普通のドラマとはひと味違うな、と思った。
でも、一番はじめに「違うな」と感じたのは、被害者女性の遺体の描写のシーン。
情事のあとに殺されたと見られる遺体だったんだけど、搬送されるときに、裸体の上半身が映されていたのだ。普通のドラマだと、22時代とはいえ、よほど必要がなければ、映さずに済ますと思う。
この第1回で、このドラマは過激な表現を含みます、ということを明言していたのだと思うし、視聴者側もそのように覚悟して、みることになっただろう。この後にも、全身の毛を剃った殺し屋とか、幾か所も骨折させられた遺体とか、ビジュアル的にも刺激の強いものもあり、緊張感を与えていた。
あと、この県会議員もすぐに自殺してしまう。これも、ドラマでよくある偽装自殺ではない。テレビドラマでは、「なんだかんだいって、人を死に追い込んだりはしない」主人公が多いが、それもない。この議員に限らず、殺される人が多い。黒河内が秘密の核心に近づけば近づくほど、知っている人間が死んでいく。
このような点も、マンガ的であるように思う。
登場人物がすぐに死んでしまうことは、うえでテレビで難しいことのひとつに挙げた、複雑なストーリーということにも関わってくる。一人登場人物がいなくなれば、新しい手掛かりを探すために新しい人物がでてくることになるし、死んだキャラクターもあとから名前だけで話題にでてくる。それらを視聴者は憶えていなくてはいけない。
また、複雑さの点で特徴的だと思ったのは、説明が最小限に抑えられていた、ということ。いま述べた登場人物についてもそうだが、複雑なストーリーのわりに、説明が少ない。前回のあらすじのパートも短いし、会話でも過去の映像をフラッシュバックさせずに名前だけで他の登場人物を挙げることが多かった。
これは不親切ということもできるけど、それらを省くことで、多くの展開を一話に詰めることができるし、会話のときに表情を強調することができる。ある意味、視聴者を信頼してくれている、勇気あるやり方だと思う。
それに、黒河内の長瀬や、沢渡を演じる渡部篤郎の表情が多くを語ってとてもいいので、合った手法だったと思う。長瀬は本当にハマってて、マンガ的なキャラクターに現実感を持たせてた。『泣くな、はらちゃん』とか『うぬぼれ刑事』とか、全然違うけど、非現実なキャラができるのはすごい。
現在のストーリーだけでも複雑なのに、過去の三億円事件とのからみもあるからもっと複雑になる。毎回、事件当時のフラッシュバックが冒頭に流され、回を追うごとにだんだん明らかになる。初めはどうからんでくるのかも分からないのが、少しずつ現在とつながっていくのがうまい。
番組ラストには、通常「このドラマはフィクションです」とでるところだが、黒バックで「このドラマはひとつの仮説である」とでる。これはこのドラマをよく表していて、ある三億円事件における仮説をもとに、壮大なストーリーが展開されている。まだ原作は連載中だが、ドラマは全10回で納得いくひとつの終わり方をしていたと思う。
マンガ的なよさがあるのは深夜ドラマの特権だったが、その猥雑なよさに、プライムタイムのドラマのもつストーリー展開やキャストも合わさったドラマだったと感じた。 

クロコーチ(1) (ニチブンコミックス)

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